Force 4

  

 師範室には、まるで何年も前からこの部屋の主だったようにシュウスイが座っていた。

 「ガイ、お前はわりと優秀だった、が、授業料が払えないのなら仕方がない。今日中に出ていってもらおう」
 「はい、わかりました。今までお世話になりました」

 深く礼をし、顔を上げる。と、シュウスイの後ろの棚に短刀が飾ってある。

 「……シュウスイ様、あの刀が盗まれそうになった物ですか?」
 「ふん、よく知っているな、その通りだ、ソウジュ師範の大事な遺品だ」
 「初めて見ました……。でも、ソウジュ師範の趣味に合いませんね、成金のようで……」
 「お前に何がわかる、さっさと部屋に戻り荷物をまとめて出て行け」
 「荷物はまとめてあります。……それ、名前まで刻んであったそうですね。誰かからの贈り物ですか?」
 「出て行けと言っている」
 「……さっき、シュウスイ様の捨てた本を見ました。毒草、何かに使ったんですか?」
 「……痛い目に遭いたいのか」
 「それが答えですか!?毒草でウルキ先輩の体調を崩して、襲撃して、罪を着せて追い出した!違いますか?」

 シュウスイは顔をちょっと歪めて立ち上がり、何か手で合図する。そのとたん、人間ではない妙な気配が漂う。

 「証拠があるのか?どうやって襲撃したと言うのだ?あの夜、私も側近達も皆外出していない、葬儀の後片付けをしていた。お前も一緒だったはずだが?」
 「……証拠は今、見つけました。襲撃したのはそっちのドアの向こうにいる!妙な気を放っている、こいつだ!!」

 ガイはあっという間もなく駆け出し、ドアを蹴破った。
 そこにはエスパー系のモンスターと、その使い手がいた。
 それはソウジュの主治医だった。

 「……先生までグルだったんですか?」

 一瞬気がそれた隙にシュウスイが攻撃をかけてきた。それを軽くガイは躱した。次々と側近達もかかって来るがガイの相手にはならなかった。

 (先にあの医師を攻撃しないと、モンスターを使われたら……。)

 だが、倒れてもすぐに起きあがるシュウスイを相手にしながら医師の傍へは近寄れない。

 「お前ごときに梃子摺るとはな……先生、頼みます」

 (しまった!)

 今まで石のように固まって動けないでおろおろしていた医師がモンスターに命令した。

 「ヤ、ヤツを動けないようにしろ!」

 命令とともにモンスターの気が一気に放出した。
 そのとたん、ガイは身動きが取れなくなる。

 「……こう、やって……先生が……ウルキ先輩達を……襲ったんだ……コウゾさん、は、…まき、ぞ、え、に……」
 「何だ、まだ口は動かせるのだな、たいした根性だ!」

 シュウスイの攻撃が来る、遠慮なく体中の急所を突く。

 「…ま、さか……ソウジュ様、まで、毒……」

 立ったまま気を失いそうになりつつガイが問う。

 「師範には少しずついろいろ食して戴いたが……、お前には、鵝掌草(がしょうそう)を食べるつもりが誤って烏頭(とりがしら)を食べ、その上、曼荼羅草(まんだらそう)を食べるっていうのはどうかな?ガイ。ついでに仏前草(ぶつぜんそう)の種も飲んでもらおうか?」

 (ソウジュ様を毒殺したのか!……やっぱり余計な事に口出ししなけりゃ良かったのか……俺まで殺される……)

 意識が朦朧としている中、ガイは何かを口に入れられた。

 「シュウスイ様、死体はどう処分致しますか?」

 側近の一人が言うのが聞こえる。

 「荷物はまとめてあるようだ。それと一緒に何処か遠くの山に捨てて置けば良い。なるべく遠くが良い。そうだ、こいつで運べば良い」

 (……俺を何処へ捨てる……)

 外へ引き摺り出されたガイは地面に転がされた。ご丁寧にガイのカバンも用意されていた。そしてシュウスイが言っていた“こいつ”が、目の前に現れた。

 (……飛行系の……モンスター……シュウスイもモンスターを持っていた、の、か……)

 「念の為もう少し飲ませた方が良い、先生」

 またガイは何かを口に入れられた。
 さすが医師だけの事があり上手く呑みこます。

 「地獄でソウジュ師範と仲良くやるんだな」

 シュウスイが高笑いをする。それに続きいくつもの笑い声が響く。その声に送られるようにガイは荷物と一緒にモンスターの足に捕らえられ、空高く上った。そして月の出ていない暗い空を猛スピードで飛行を始めた。    

 朦朧としていた意識はまだ続いていた。だが、どのくらいの時間が経ち、どのくらいの距離を来たのかは、まったくわからなかった。ただ、毒が効き始めてきて、その苦しさで意識を失う事は出来なかった。
 モンスターの背中には誰かが乗っているらしいのは少し前に気付いた。  

 「成仏してくれよ、化けて出るなよ」

 と、時折呟くのが聞こえる。

 (……モンスターが俺をちゃんと捨てたかどうかを見るための人間、か……)

 やがて、シュウスイの側近は、廻りにまったく街の明りが見えない山にガイを落とし、帰っていった。

 (イキナリ落としやがって!……こんな死に方するんだったら、大人しく道場を辞めて路頭に迷って死んだほうがマシだったか?
 どっちもイヤだな……こんな事なら、もっとロイスに甘えれば良かった、もっとメルに抱きしめてもらえば良かった、……もっと、フィーナと話をしていればよかった……もっと……)

 地面に激突する前にガイは気を失った。

   

 (ここは、何処だ?……懐かしい匂いがする。……天国ではない、な……俺の知っている匂い……)

 目を開けたガイはしばらくボーとしていた。

 (緑の……世界?)

 最初に見た物は、唯一、緑一色だった。目が慣れるにつれ緑の間所々に青が見えてきた。次第に他の色も見えてくる。
 赤・黄・白が視界の端に、そして、動く茶色。

 (そうだ、ここは山の中、だ)

 自分の置かれている状況を思い出し焦点が合う。どうやら仰向けに横たわっているらしい。
 一面緑に覆われた豊かな山の中……。

 (懐かしかったのはこの緑の匂いか……)

 ここ数年、“自分の場所”は森や山だった。モンスターを捕らえるだけではなく、心を休めるのもそこだった。ガイはゆっくり起きあがって見た。体は動く、多少痛みはあるが骨は折れてはいない。

 「よく、擦り傷程度で済んだものだな……何だ?これは?」

 傷口に揉み解した葉が載っている。それを手に取る。

 「……薬草か、艾(もぐさ)と十薬を一緒にしている、良く知っているな……お前が手当てしてくれたのか?」

 ガイの向いた方に人はいない。
 いたのは動く茶色……大型だがわりと大人しいモンスターだった。それは、ゆっくり近づき、また、手で揉んだ薬草を傷に載せた。

 「野生のお前が何故俺を助ける?」

 モンスターは、ただ、ジッとガイを見つめただけで何も答えてはくれない。

 「答えるはずないか……ありがとう、助かったよ」

 モンスターは頷くような仕草をして歩いて行ってしまった。一人になったガイは改めて廻りを見渡した。緑が豊かな所だった。きっと、動物もモンスターも沢山いるだろう。

 「助かったのは良いが、ここはどの辺なんだ?それに道もない、まいったな」

 とりあえず何か食べる物を探そうと立ちあがった。空腹は感じているが、脱水症状は起こしていないので、あのモンスターは水も呑ませてくれていたのかもしれない。

 「そういえば、毒、効かなかったのかな……」

 (間違って呑ませたか、まさかモンスターが解毒薬呑ませてくれるわけないよな)

 ガイは耳を澄ましながら歩いた。何処からかモンスターが飛び出すかもしれない、それに喉も乾いてきたので水の音も聞きたかった。

 すぐに小川は見つかった。顔を洗い、喉を潤し、ついでに傷口も洗った。小川の水は何故か懐かしい味だった。傍には艾(もぐさ)と十薬もあったので傷口にもつけたが、食用にもした。味はともかく何か食べないと体が持たないと思い口に運ぶ。

 (ここで、生き延びた事はどういう意味があるのか、もし、神がいるとしたら、何故俺を生かしたのか?まさか復讐しろって事じゃないよな……大体ここから出て人家のある所まで行けるのか?行けたとして一人でシュウスイ達を倒せるのか?訴えたとしても誰が俺の言葉を信じる?ん、誰だ?)

 気配を感じガイは振り向いた。
 大型のモンスター。
 さっきのヤツとは違う種類だ。殺気を感じガイは後ろへ飛び退き間合いを取る。モンスターの鼻の少し上に傷跡がある、もう何年か経った傷のようだが、かなり大きい。
 ガイはその傷に見覚えがあった。

 「……そうか、お前、あの時のヤツだな?俺を覚えているみたいだな。随分この森は回復した、それをまた、荒らしに来たと思っているのか?」

 ここの緑の匂いが懐かしかったのも、小川の水が懐かしい味だったのも当然だった。この山、この森はガイの生まれた町・トクサの森林だった。

 「あの時は俺なんて相手にならなかった……が、俺はあの時とは違う、試して見るか?今度は本気で俺を殺すつもりでかかって来い!」

 そう言うとガイも殺気を放ちモンスターを睨みつける。

 (どうせ、二回死んでいる命だ、もし、こいつに勝てたら俺の強運も本物だ!)

 さきにモンスターが動きガイにかかって来る。だがガイにはそいつの動きが手に取るようにわかり、遅く見える。攻撃を躱しながら考える。

 (手加減しているのか?いや、本気だ、これは……。なら、こっちも本気でいく、……このモンスターの急所、弱点は……)

 ガイの反撃が始まる。たいした力は入ってないようだがモンスターは攻撃される度に後退る。

 「……ソウジュ流武道は急所は突かない武士道……。だが、俺はもうソウジュ流ではない……俺の流儀でお前を倒す!」

 最後の一撃は古傷だった。モンスターは仰向けに倒れ動かなくなった。

 「……悪いな、古傷を抉ってしまって……、すぐ手当てしてやる……捕獲したら、な」

 案外、あっさり捕まえた事にガイは気が抜けた。そして自分の怪我が増えている事に気付く。

 「……痛て、いつやられたっけ?まぁいいか、いくつ怪我が増えても同じだ」

 今まで捕獲するときに急所を突くことはなかった。まして、怪我など殆どさせなかった。
 一度カプセルに入れたモンスターを外に出す。

 「このカプセルどういう仕組みなんだろうなぁ、どんな大きなモンスターでも捕まえてこいつに入れればポケットに入ってしまう……不思議だよなぁ」

 そう言いつつ手当てをしてやる。モンスターはすっかり大人しくなっている。

 「何故お前達は捕まると言う事をきく?俺はお前の主か?マスターか?お前は俺に絶対服従するのか?」

 ガイはモンスターを見つめ、モンスターもガイを見つめた。その目は敵意も殺意もない。絶対服従というより信頼の色を感じる。
 そこにさっきの茶色いモンスターが何かを持って現れた。ガイの傍のモンスターにギョッとはしたが、すぐに状況を理解したのか安心した風にガイの所まで来た。持っていたのはガイの荷物と、まだ少し青みがかった野イチゴだった。礼を言いそれらを受け取る。

 「お前、あの時森へ帰した子供のモンスターだな?もう子供じゃないか、随分大きくなった……ちゃんと森の仲間に入れたか?」

 モンスターは何度も頷き、そしてまた森の中へ戻っていった。仲間の姿がちらっと見えた。ガイは貰った野イチゴの半分を、さっき捕まえたモンスターに分けてやる。

 「お前、この森を捨てて俺について来て良いのか?」

 ガイを見つめる目は何処までもついて行くと言っているように見えた。

 「じゃ、決まりだ。この森を出てトクサタウンのあった所へいく。町はなくても道ぐらい残っているだろう。トクサタウンまで……俺が住んでいた町の跡までいけるか?」

 モンスターは一方へ向かって二・三歩踏み出し、ガイの顔を見る。

 「そっちの方向だな、よし、行くぞ」

 ガイも同じ方向へ歩き出す。
 そしてモンスターは森へ別れの遠吠えをした。

      

 数日後、ガイはロイスの家の前にいた。

 「そんな……」

 ドアは硬く閉ざされていて誰もいない。
 それどころか庭に“貸家”の看板が立っている。
 茫然として立っているガイに通りかかった人が声をかけた。

 「ロイスさんなら引越ししたよ」

 驚いて振り向く。隣の家の人だ。

 「いつ、ですか?」
 「一週間くらい前だけど」
 「一週間?」

 ガイは手紙の事を思い出した。息子達と住む事が決まったという手紙……。新住所が決まったらすぐ連絡すると書いてあったが消印がいつだったか覚えていない。

 「あの……今日は何月何日ですか?」

 ガイの問いに隣人は変な顔をしながら答える。

 「風待月の十三日だけど……」

 (な……俺は十日以上もトクサの森林で意識がなかったのか!?どうりで傷が少ないと思った、十日で大分回復したのか?そういえば、まだらに生えてるヒゲも長くなっていた。……十日も延ばしたことないから日にちなんてわからなかった)

 「……十三日ですね」

 もう一度確認する。

 「十三日だよ、……あなた、ガイ君の知り合いか何か?」
 「!」

 驚いて返事が出来ない。

 (俺の顔、忘れたのか?)

 「どこの街かわからないけどロイスさん達は息子さんの所で、ガイ君ならルリシティの何だか有名な道場に入ってるはずだよ」

 隣人はまったくガイだと思っていないようだ。

 「そ、そうですか、スイマセン」

 やっとそれだけの言葉を出し、その場を走り去った。

 (たった二ヶ月、いや、もっと経ってるけど……そんなんで俺の顔忘れるのか?……ヒゲは剃ったよな、でも鏡見ないで剃ったから残ってて変な顔になっているのか?)

 手で触ってみたがヒゲはない。商店街まで来てガイはショーウィンドーを覗く振りをして硝子に映った自分の顔を見た。

 「これが、俺なのか!?」

 そこには、里親思いの良い子で優等生の顔のガイも、悪戯盛りの顔のガイもいなかった。そこにいたのは厳容な顔、厳列な眼差しの強毅で強靭な少年というより青年といった方がいい人間がいた。

 (……僅かな間に、心労で髪が全部白くなった……というのは聞いたことがあるが、顔つきもこんなに変わるものなのか?)

 それに、幾つも年を重ねたようにも見える、もう、少年には見えない。
 愕然としてその場に凍りついたガイは、ふと我に帰った。

 (やはり、ガイは死んだんだ、ここにいるのはガイではない……それなら!)

 ガイは力強く歩き出す。

 (俺がガイではなくなったのなら、好きなようにするだけだ。家族も里親も友人も恩師も恋人も、誰もいない一人きりの人間なら……誰にも迷惑はかからない、自分だけの責任で出来る。待っていろ、ゆっくりと準備して最高のお礼参りをしてやる)

 この時から、ガイは過去と、“大地の女神”からつけられた名“ガイ”を捨てた。

 そして、ロイスの元には行先不明でガイへの手紙が戻って来ていた。

   

 およそ一ヶ月後、十六夜月に時折雲のかかる夜、ルリシティ武道道場が襲撃された。
 第一撃は“地震”と“地割れ”だった。建物の倒壊とともに外に逃げ出したシュウスイ達は、月明かりが翳る直前に人影を見た。

 「何物だ!火事場泥棒ならぬ、地震場泥棒か!」

 人影のあった場所からずっと離れた所から返事が来る。

 「建物の下敷きになれば苦しまずに済んだものを」

 再び月が現れ、シュウスイの側近達が一斉にその人物に襲いかかる。が、人影はひらりと躱し、もっと大きな影が現れ、あっという間に側近達は投げ飛ばされる。

 「モンスターを使うとは卑怯な、何物だ!名を名乗れ!」
 「お前に名乗る名前などない」
 「おのれ……、先生!隠れていないでモンスターを!」

 この日はソウジュの四十九日の法要でたまたま医師が来ていて遅くまで残り、酒を呑んでいた。
 シュウスイと隠れていた医師がモンスターを出す。エスパー系のモンスターの技に襲撃者とモンスターは動けなくなり、そこに、飛行系モンスターが空中攻撃をかけた。が、一瞬で標的が消えてしまい反対にシュウスイのモンスターが攻撃された。背中に毒針が刺さっている。

 「まだ、“金縛り”の技は効いているはず!なのに何処へ消えた!もっと技を強くかけろ!……必ず見つけてやる……ここか!」

 襲撃者の立っていた場所に穴が開いている。シュウスイは新たにモンスターを出し、穴の中へ放とうとしたその時。

 「ギャアー!」

 シュウスイが振り向くと医師とエスパー系モンスターが攻撃されている。黒い霧状のガスに紛れて近づいたモンスターと地面から飛び出したモンスターに……。
 そして、シュウスイが目を離した隙に、穴からは金縛りの解けた襲撃者とモンスターが出ていて、シュウスイの出した新手を倒していた。

 シュウスイは相手の顔がハッキリと見えたが、誰だかわからない。見た事があるような気がするが思い出せない。
 シュウスイはまた新手を出した。

 「何匹出そうと無駄だ、シュウスイ。私のモンスター達はすでに命令済み。どんな状況でも瞬時に対応できる…」
 「さっきの地震もお前の仕業か!お前はこの道場に何か恨みがあるのか?それとも俺にあるのか!」

 シュウスイは一度に十匹近くのモンスターを出す。

 「無駄だと言ったはず、私の伏兵の数も位置も知らずに……」

 雲は襲撃者の見方をするように月を隠す。動きが鈍くなったシュウスイのモンスター達は、怪音とともに次々と倒されていった。月が再び見えた時、いつのまにかシュウスイは敵のモンスターに囲まれていた。

 少し離れて襲撃者は一匹のモンスターと何か話している。

 「よし、わかった……シュウスイのモンスターは全て倒した。伏兵もいない。……よく、教えてくれた」

 そう言い終えると今度はシュウスイの方へ近づく。

 モンスターに囲まれて二人は戦いだした。が、敵は容赦なくシュウスイを攻め、一つも反撃させない。一方的な戦いだった。

 「た、助けてくれ、金なら、金ならある……」
 「……」  

 敵が攻撃を止めた。『金で済む』と、思ったシュウスイは這うように崩れた建物に近づき何かを探し始めた。襲撃者のモンスターがシュウスイの前に立ち、建物の瓦礫を幾つか投げ飛ばした。
 金庫が一つ出て来た。
 慌てて開けるシュウスイを襲撃者は黙って見ていた。

 「好きなだけ持って行ってくれ。だから、助けてくれ」

 襲撃者はシュウスイが差し出した現金を黙って受け取った。が、

 「私を馬鹿にするな」

 その言葉とともに現金の束が燃え上がった。

 「まだ、残りの金庫もあるだろう?」

 シュウスイにではなくモンスターに訊く。モンスターは頷き何かを叫ぶと残りのモンスター達が一斉に瓦礫を投げ出し、金庫や金目の物を持ってきた。

 「これで全部だな、シュウスイ」
 「そ、そんな、全部は駄目だ少し置いていって……」

 情けない声を出すシュウスイに冷たい返事を返す。

 「これは全て貰う。お前に残すのはお前の命、唯、一つ」

 金庫は全てモンスターに壊された。中に入っていた書類や現金は全て燃やされ、金目の物も壊され、潰され、粉々にされ、風に散らされた。

 傷の痛みか、財がなくなったショックなのか、シュウスイは気を失い、襲撃者は姿を消した。

  

 闇の中で誰かが呟く。

 「自然界では弱肉強食、力のある者が生き残る。力のある者が統べる。……お前達は私に力ある限り従うのか?私に力がなくとも従うのか?私はお前達を信頼している限り裏切られる事はないのか?私は力あり続ける、もっともっと力をつける。だからついて来てくれるな?それぐらいは信じて良いな?」

 闇の中で誰かが返事をする。人語ではない言葉が幾つも返る。

 『何処までも、ついて行く』 と、……。   

――エピローグへ続く――

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