金縛りの夢

 ある日、サキコは二階の自室でベッドに横になっていた。家族はとっくに眠っている深夜の事だった。
 ふっと気がつくと、見上げている天井と自分の間に黒い霧のようなものがかかっている。

 『何だこれは?』

 そう思いサキコは起き上がろうとしたが体が思うように動かない。悪寒が走る。

 『まさか、金縛り!?』

 金縛りなどなったことがなかった。

 『そ、そうだ、お経を唱えれば……』

 お経はいくらでも頭に浮かんだが、声が出ない。必死に動こうと、声を出そうとしたが、かろうじて少し体が動く程度だった。そのうちに足元から何かが伸びてきた。白く長いそれは……。

 手だ!それも数え切れないほどの手が彼女の足をつかもうとしている!重い体を必死に動かそうとしてもがく。白い手は足に触れるか触れないかの所でうごめいている。重い体を何とか動かしてそれを蹴る。だが、それは執拗に足をつかもうとし、ついに、腰のあたりまで手が伸びてきた。

 『なに!?こいつー!!』

 サキコはキレた。無理やり自分の体を動かして、なんとその白い手をつかんだ!

 その手首に、体温は感じられず、異様に細かった。骨と皮……と言うより骨その物だった。骸骨の手首……。へし折るつもりでつかんだが、あまりの細さにぞっとした彼女はどうしようか迷った。

 途端に目が醒める。彼女はホッとした。

 「なんだ、夢か……いや、違う!?夢じゃないのか?」

 サキコは夢の中とまったく同じ恰好で横たわっていた。彼女の手は骸骨の手首を握った形になっていて、その感触まで残っている。そして掛け布団の乱れて波打ってる形まで夢の中と同じだ。そして思い出す。今まで何度も怖い夢を見たが、夢の中ではいつもお経を思い出す事が出来なかったことを……。


 それ以来、サキコは妙にリアルな金縛りの夢を何度も見た。最初は夢か現かわからず気味が悪かったが、ある日夢だと言う事がハッキリした。……金縛りをなんとか自力で解いて這うようにベッドから降りて階下の母を起こして助けを求めている所で目が醒めたのだ。明らかにこれは夢だ。

 「こんな夢で寝不足になるなんて不愉快だ」

 彼女はお守りを枕元において眠ることにした。

 「怪奇現象の8割は、科学で説明がつく自然現象や思いこみや見間違いだ……。ましてこれは夢だ……。だから気休めにお守りを置けば見ないはず……」

 だが、またしても金縛りの夢を見た。だが夢の中で

 『また、金縛りの夢だよ。お守りもあるしこのまま無視しよう。無理に起きればまた寝不足だ』

 と彼女は金縛りを無視して力を抜いた。そのあとは彼女は覚えていなかった。どうやら深い眠りにつけたらしい。


 それ以後も、サキコは疲れている時にはよく金縛りの夢を見た。横向きで寝ている時に後ろからこの世の物でない者にしっかりと抱きつかれている夢もあった。が、お守りがあれば夢を無視して平気で眠っていられた。しかし、引っ越した後は状況がちがった。

 金縛りだけでなく他の怖い夢も見てしまい何度も目が醒める。お守りは握りしめて寝ても安眠が出来なかった。

 「よっぽど疲れているのか?それとも本当に……」

 一瞬、怪奇現象・怪奇体験の類か?と疑った。

 「もしそうだとしたら……体と心のバランスが悪いと見えるって聞いた事がある……体と心を休めれば良いんだ!……でも寝不足でダメだ、ちっとも休めない、何とか休める方法はないのか?」

 サキコは床から突然立ちあがり、寝室を出た。戻ってきた時、手には小さな黄色いぬいぐるみが……。

 「気にするから変な夢を見るんだ。これを見つめていればきっと余計な事など考えず眠れる。これだけに集中していれば夢を見たとしてもこれの夢だ」

 布団の中で彼女は、小さな黄色をじっと見つめた。

 「これってねずみだよね……実在したとしたら40センチのねずみが(笑)……犬とか猫って水に濡れたら痩せて見えるけど、この黄色いねずみも細く見えるんだろうか?ぴか、ちゅうって鳴くのは良いんだけど、ちゃあっていったい……」

 いつのまにか彼女は眠っていた。気がついたら朝だった。

 その日以来、サキコは『金縛りの夢』を見なくなった。5年以上も続いた夢がぬいぐるみ1個で見なくなったのだ。以後、約3年その夢は見ていない。ピカチュウのぬいぐるみ様様である。

 ――終り――

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