無断乗車

 カイトが免許を所得したばかりの事だ。運転しているだけで楽しい時期、先輩と二人で深夜のドライブをしていた。車は街灯のない暗い山道を走っているうちに急に広い場所に出た。

 「適当に走っているうちに変な所に出ちゃいましたね」

 「何処だ?ここは」

 二人は辺りの暗闇に目を凝らした。シンプルな建物に煙突……。何処だかわかったカイトはすぐに今来た道をひき返した。

 「まさか火葬場に着くと思いませんでしたよ」

 そう言いつつカイトはルームミラーを見た。外は暗いので建物は映るはずもない。いや、何も映らないはずだった。

 「……先輩、後ろ見ないほうが良いです」

 「え?何言って……わかった、見ない」

 誰もいないはずの後部座席に誰かがいる。その姿がルームミラーに映っているのだ。カイトは気づいていない事にした。先輩もその意向をわかってくれたようだ。

 二人は後ろを振り向かず、ただ前だけを見ていた。ルームミラーも見ようとしなかった。カイトはどんどんスピードを上げて車を走らせた。いつのまにか街灯のある住宅地が近づいていた。カイトはそっとルームミラーを覗いた。誰かが映っていてもそれと目が合わないようにそっと……。

 「先輩……もう、大丈夫みたいです」

 「よかった〜」

 無視された何者かはいなくなっていた。いったい何処にいっかのだろうか……。


 ある日、カイトは道に迷った。そして一時間弱の間に墓地に三回も行ってしまった。もちろん全部ちがう場所である。

 「夜じゃなくてよかったよ」

 そうカイトは思った。

 ――終り――

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