保留

  
 あれは何ヵ月前だっただろうか、小餅家近くに彼がやってきたのは。

 彼はいつも同じ場所に、仲間たちと一緒にいた。

 仲間がいて、さみしくはなさそうだったけど、どこかさみしげに見えた。

 時々、そこを通りかかるたびに彼を見た。

 だんだん、仲間たちが減って行く。

 新しい居場所、新しい家に、行ってしまったのだろう。

 彼は、それほど可愛いお顔ではない。

 だが、何度も見かけるたびに、だんだん親しみがわいてくる。

 小餅はいつのまにか、彼に会うたびに、頭をなでていた。

  

 ある日、彼が転んでいた。

 小餅は慌てて抱き起こしてあげた。

 連れて帰りたくなる。

 でも、やめる。

 とりあえず、保留。

 そんな事が何度かあった。

 転んだり、まがっていたり、耳がたれたり……。

 そのたびに、直してあげる。手のかかる子だ。

  

 いつも同じ場所で、小餅は立ち止まるので

 「そんなに気になるんだったら、連れて帰れば?」

 と、みぃパパは言った。

 「今日はやめとく。この次、まだ、ここにいたら連れて帰る」

 とりあえず、また保留。

 そして4・5日後、彼は、まだそこにいた。

 小餅は彼の手を取った。

 小餅がいつも彼をなでるたびに、様子を見に来る人を探した。

 すぐに来た。目が合う。

 「いらっしゃいませ〜」

 そう、ここはショッピングセンター内のワゴンショップ。

 彼はそのワゴンに並んでいた、ピカチュウぬいぐるみだった。

 景品用ピカチュウぬいぐるみ、「タフタピカ・パート1」である。

 何度も、買うのを保留されたピカチュウ、保留ピカチュウ、ほりゅう…

 名前は『リュウ』くんに決定。


しっぽが、タラ〜ンとしてる。茶色い色は片面にしかない…

 手の先が、ちょっと黒い。だって1998年生まれだから……

 4年も、どこかをさまよって、ここに来たのだろうか!?

 2002年春、リュウくんの長い旅が終わった。

終わり

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